2018年07月07日

スルタノフも間違える(バッハ:イタリア協奏曲第3楽章)

これは大変貴重な録音です。スルタノフが派手に間違えたのが記録されている、唯一の録音であると共に、バッハのイタリア協奏曲の3楽章の演奏の記録があるのはこの音源のみになるからです。

さて、その大変貴重な演奏はこちらになります。1989年のポゴレリッチフェスティバルでの演奏の録音と言われています。
何ともスルタノフらしい、幸せな始まり方ですが、途中で暗譜が数回怪しくなります。これで止まらず最後まで弾ききるのはさすがプロです。ともあれ、貴重な録音をお楽しみ下さい。


ところで、これはサイドエピソードですが、イタリアのピアニストで Sandro Russo という方がいます。日本でも、名前が知られた方です。
ある時、Sandro氏は突然のリクエストでこのイタリア協奏曲を本番で弾いたときに、悔いの残るミスをしたそうです。彼も実はスルタノフの演奏が好きで、よく聞いているそうですが、いろいろとスルタノフの音源をあさっているうちに、この音源に遭遇しました。Sandro氏曰く、このイタリア協奏曲を聴いていると、自分に弾き方が似ていると思ったそうですが、かつて自分が悔やまれるミスをしたところと同じところでスルタノフもミスしているのを聞いて、特別難しくもないにも関わらず何とも偶然だ、と思ったそうです。
スルタノフにインスパイアされたピアニストたちのこのようなエピソードもまた、興味深いと思います。
posted by Murakami at 11:01| Comment(0) | 演奏

2018年06月30日

スルタノフの音源の探し方

スルタノフの録音というのは、活動期間の短さや、ソーシャルメディア時代に間に合わなかったということもあって、かなり限定されるのですが、それでも一般の人が思っているよりも多くのものがあります。今回は、そのような録音の探し方を少しご紹介します。

まず、公式販売されている CD や DVD などは、確認出来る全てのものをこちらにまとめています。
アレクセイ・スルタノフ ディスコグラフィ
その上で、少しレアな音源の探し方を共有します。

録音を探すとなると、どうしてもYouTubeになるので、まず一番はそこで検索してみるということです。こちらのスルタノフ本でも、そのようなやり方を推奨しています。


ただ、実はこの方法では見つけられない貴重な音源もあります。その簡単な方法をご紹介します。
見つけられない理由の多くは、もともとmp3ファイルだったものをアップロードしているからなのですが、ファイル名に「_(アンダースコア)」が使われており、YouTubeの検索ではアンダースコアがセパレータとして機能しないので引っかからないのです。

可能な限り、全てのスルタノフの音源を確認していきたい、という場合は、スルタノフの音源をアップロードしているアカウントの動画リストを眺めることをお勧めします。
YouTubeにあるスルタノフの音源は、事実上3人によってアップしているものが全てで、残りのものは、それらから派生したもの、もしくは同じソースを使ったものです。彼ら3人は、何が貴重な動画かを明確に理解しており、そういうものを逃さずに公開しています。

1. アカウント:carevnarakuna
このアカウントは、スルタノフ夫人、Daceさんが管理するもので、事実上スルタノフ公式と言えます。
有名なものも多くありますが、一部大変非常に貴重なものなどを含みます。有名なヴァン・クライバーンの予備予選で使われたメフィストワルツの動画なども、彼女が公開してくれたおかげで、こうして皆の目に触れることになりました。

なんといっても、"SULTANOV Encores"シリーズが、大変貴重です。

2. アカウント:Wolfgang527
このアカウントは、ロシアのピアニスト、Andrey Denisenko さんのものと言われています。
一部スルタノフとは無関係のものを含みますが、ほとんどはスルタノフに関係するものです。

3. アカウント:harmony14447 - YouTube
このアカウントは Elena さんという方のものと言われています。前回紹介した、モーツアルトのK.330の貴重な音源も彼女のアカウントで共有されているものです。

この3つのアカウントの動画を見てみると、これまで知らなかったスルタノフの動画/音源を見れるかもしれません。
動画もたくさんありますので、どの動画が貴重なのか、というのもこのブログで今後ご紹介していきたいと思います。

なお、これらの音源は、プライベートに録音されたものを含むと思いますが、スルタノフのご家族は世界中からこうした音源を探されています。スルタノフの日本での活動の中で、もしお手持ちの音源や写真などがありましたら、是非お知らせ下さい。
posted by Murakami at 11:06| Comment(0) | 演奏

2018年06月09日

スルタノフの演奏に見るホロヴィッツの影響(モーツァルト)

スルタノフの演奏を聴いていると、いたるところにホロヴィッツの影響を感じることが出来ます。本日はその1つをご紹介します。

スルタノフが演奏したモーツァルトの K.330 はクライバーンコンクールで演奏した 2, 3楽章が録音としては有名ですが、大変貴重な1楽章の録音も実は残っています。

以下の録音日時はあまりはっきりしませんが、情報を整理する限り1991年12月20日ギリシャのアテネ公演での録音の可能性が高いと判断しています。


この演奏は自由度が高く音楽の喜びが見事に表現された素晴らしい演奏で、是非多くの方に聴いて頂きたい演奏です。

ところで、スルタノフと K.330 といえば、1986年のホロヴィッツモスクワ公演で演奏を生で聴いて大きな刺激を受けたであると想像されます。その後、スルタノフは1989年にホロヴィッツの自宅を訪ねた時も、ホロヴィッツの前でこの曲を演奏しています。
そのホロヴィッツのモスクワ公演の演奏を聴いてみると、スルタノフがいかにこの演奏から影響を受けていたかがわかります。第2主題の入り方や、ドミナントコードの弾き方など、あちこちに感じることが出来ます。


特に特徴的なのは、トリルの弾き方です。スルタノフの演奏では最初に1:22あたりに出てくる以下の部分は、中でも特徴的です。ホロヴィッツに倣い、何ともお洒落な弾き方です。
Mozart-KV_330.png

スルタノフは好きな作曲家にモーツァルトをあげていましたが、この演奏を聴くと実によくわかりますし、他にも様々な録音を聴いてみたいと思わされます。

posted by Murakami at 11:29| Comment(0) | 演奏

2018年06月03日

スルタノフとホロヴィッツ(ホロヴィッツ編を弾く)

全4回で予定していた、スルタノフとホロヴィッツに関する連載の最後になります。過去のものはこちら。

スルタノフとホロヴィッツ(妻 Daceとの出会い編)
スルタノフとホロヴィッツ(ご対面編)
スルタノフとホロヴィッツ(ホロヴィッツのピアノ編)

さて、ホロヴィッツシリーズ4回目となる今回は、スルタノフとホロヴィッツ編曲作品についての関わりをご紹介します。
スルタノフが持っていたレパートリという点からは、以下のレパートリページとディスコグラフィページが参考になります。この中にも、ホロヴィッツという文字が見えます。
アレクセイ・スルタノフ ソロレパートリ
アレクセイ・スルタノフ ディスコグラフィ

スルタノフの演奏は、もちろんどの曲もホロヴィッツの影響を大きく受けているわけですが、まず最初にホロヴィッツの解釈にならって演奏された、といえるのは、1988-89年に演奏されているメフィスト・ワルツだと思います。以下の動画はクライバーン・コンクールのビデオ審査に提出したものですが、この後、コンクールで弾き、カーネギーホール公演を含む入賞者コンサートツアーで何度も弾き、さらにはホロヴィッツの目の前でも弾いています。


時間軸として、次にスルタノフが弾いたのは、ラフマニノフのソナタ2番のホロヴィッツ版になると思います。主に1996年の公演プログラムに使われましたが、それより前の1992年に2月にTELDECのベルリンのスタジオにて録音を行っています。


以下は1996年の東京公演になります。


その次にスルタノフが弾いたホロヴィッツ編は、リストのハンガリー狂詩曲第2番です。こちらは、1999年3月の日本公演で演奏しています。具体的にいつ頃から弾いていたかの記録はありませんが、1998年の7月頃から練習をしていたのではないかと言われています。


さて、その後スルタノフは2000年3月に行われたリガでのライブで、ハンガリー狂詩曲に加えて、カルメン変奏曲、結婚行進曲、死の舞踏と、4曲のホロヴィッツ編を披露しています。この3曲もレパートリとしては当時最新であったと推測されますが、この中ではカルメン変奏曲を一番最初にマスターしていたようです。1998年に行われたインタビューで、既にカルメンをレパートリにしていると答えたようですが、1999年公演ではアンコールを含めて一切披露していなかった点や、ホロヴィッツ編の多くの楽譜を1999年公演の中でファンから入手したのでは、という疑惑もあり、はっきりしないところもあります。いずれにせよ、これらはあっと言う間にレパートリになり、1999-2000年の公演で、母国ウズベキスタンや、モスクワ、リガなどで演奏しています。実現こそなりませんでしたが、ジャパン・アーツのアーツコアレーベルより、ホロヴィッツの編曲集の録音をリリースするという計画もありました。

これは 2000年にモスクワのグネーシンでのコンサートの貴重な映像です。カルメン変奏曲。


同じ日に演奏した、死の舞踏。


別の日(2000年3月のリガ公演)の録音より、結婚行進曲。


最後に、上記まではよく知られているのですが、さらに2000年4月に、スルタノフはフォートワースにてもう1曲、ホロヴィッツ作曲の「変わり者の踊り」を録音しています。
この録音は、ロシアなどで小さく流通されたという「Unpublished Sultanov」というCDの中に含まれました。


録音が残っているのは、今のところこれくらいです。
この他によく知られている話としては、以下があります。
1. リスト=ホロヴィッツのハンガリー狂詩曲第15番(ラコッツィ行進曲)はレコーディングこそ行われなかったが、既に練習には取り組んでいた。
2. ホロヴィッツ編曲の星条旗よ永遠なれ、は、本来アメリカ国籍取得記念セレモニーで演奏予定であったが、時期が延びてしまい、結果的には病後となった2004年に右手1本で "America the Beautiful" を演奏した。
その他、レパートリリストには、ハンガリー狂詩曲第19番のホロヴィッツ編も記載がありますが、こちらは情報はありません。

いずれにせよ、スルタノフが最も尊敬していたホロヴィッツの編曲も、多くの曲が無事に録音されていたことに感謝し、お楽しみ頂ければと思います!
posted by Murakami at 15:54| Comment(0) | 演奏

2018年05月06日

伝説のメフィストワルツ

大変有名な、スルタノフのクライバーン・コンクールでのメフィストワルツの演奏です。
演奏中に弦が切れてしまったことでも有名なのですが、ファンの間では、この演奏後のスルタノフがとったポーズがカッコいいということでも話題になっています。
cliburn1.jpg

さて、このシーンは、クライバーンコンクールのドキュメンタリーフィルム "Here to make music" に収録されています。

残念ながら、事実上市場にはほとんど出回っていないDVDですが、スルタノフに関連する内容の一部は以下の動画で見ることが出来ます。

最初に流れるモーツアルトも音楽の喜びにあふれていて素晴らしいですが、次のメフィストワルツも集中力の高い圧巻の演奏で、弦が切れたということもあり、大喜びするアメリカ人の聴衆も見ることが出来ます。この動画では、演奏の後半が少し紹介されているだけで、実際に弦がどこで切れたかを確認することが出来ません。

コンクールのライブCDには、この演奏全体が収録されていますが、こちらも残念ながら事実上流通していないと言えます。ジャケット写真でも有名になったCDです。

さて、では実際にこの演奏のどこでどの弦が切れたのか気になる方は、こちらをご確認下さい。

場所は前半です。1:25くらいから聴いて頂くと、その歴史的瞬間がおわかり頂けると思います。楽譜にすると以下です。頂点の音ではないですし、強烈なフォルテであったとしても運が悪かったのでしょう。
liszt3.jpg

スルタノフのメフィストワルツは、その独特な解釈、また人生の重要な場で弾かれている点(クライバーンコンクールのビデオ審査、クライバーンコンクールの伝説の演奏、そして、ホロヴィッツの前で演奏した曲目である)で、いろいろと研究の余地が多いところですが、YouTubeのコメントに「Greatest Mephisto ever」などとあるように、コンクールの場で、オリジナルの楽譜とは違った形で演奏するというチャレンジの中、聴衆を釘付けにする素晴らしい演奏です。

最後に、この演奏に関して否定的である意見もあることをご紹介しておきます。
以下の本は、1989年のクライバーン・コンクールをテーマに書かれた本ですので、もちろんスルタノフの話はたくさん出てきます。著者は音楽評論家の方によくあるように、スルタノフの演奏はお好みではなかったようです。なおこの本は現在 Amazonで41円ですので、ご興味があればお読み頂いてもよいかもしれません。
posted by Murakami at 14:04| Comment(0) | 演奏