2018年04月21日

スルタノフの3度は上手いのか

スルタノフといえば、やはり圧倒的なテクニックという印象があります。ピアノ演奏にはいろいろなテクニックがあり、スルタノフはオクターブの力強さやスピード感あふれるパッセージが印象的ですが、幻想即興曲に代表されるように、自ら進んで3度でいろいろと弾いているのでやはり上手なのでしょう。
既にスルタノフを代表する3度の技術が入った演奏をこれまで紹介してきましたが、もう少し比較しやすいものをご紹介してみます。

最初は、ショパンコンクールの1次予選で演奏した、ショパンのエチュード op.25-6 です。
スルタノフが残したショパンエチュードの録音は限定されているのですが、中でも op.25-6 の録音はこの1つしか残っていません。非常に貴重なものです。
以下はショパンコンクールで弾いたエチュード3曲の動画で、op.25-6 は2曲目(3:40頃)になります。

最近は op.25-6などの難曲をさらっと弾く若者もたくさんいるので、その技術の相対的な高さについてはちょっと判断が出来ません。ただ、1点ご紹介したいのは、スルタノフが病気で倒れた時に、スルタノフのオフィシャル掲示板に「私は1995年のショパンコンクールに出場していたのだが、あなたの op.25-6 を聞いて本当に圧倒されました」というコメントがかつてありました。ピアニストだからこそわかるものというのがあるのでしょう。
なお、このエントリの本題とは外れますが、このエチュードの動画を見ていると、なんといっても op.10-12 の革命のエチュードの演奏に圧倒されます。1次予選だというのに、演奏後もずっと終わらず幸せそうに拍手する聴衆たちをご覧下さい。最初に演奏された op.25-5 も本当に素晴らしいです。
ショパンコンクールの動画は、画質が悪いながらも手がよく見えますので、スルタノフの演奏するときの手や手首の使い方を学ぶのにとても参考になります。

もう1つご紹介したいのは、メンデルスゾーン=リスト=ホロヴィッツの結婚行進曲です。疲れも出てくるであろう後半に、見せ場の右手3度が登場します。腕自慢の若手がこの曲を弾くケースもよく見かけますが、ここの3度を苦しそうに弾いているのをみると、スルタノフのテクニックの凄さがわかると思います。
残念ながらこの曲を演奏した映像は残っていませんが、ライブでの興奮が伝わる録音が以下に残っています。2000年3月のリガでのコンサートの録音です。ラトビア共和国の首都リガはスルタノフ夫人出身の街でもあります。圧巻の3度が登場するのは4:35頃になりますが、結婚の喜びを表現した前半、官能表現豊かな中盤、そしてテクニック祭りの後半まで、是非全体を聞いていただき6分間の幸せを味わって下さい。
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2018年04月14日

スルタノフが弾く半音階スケール

スルタノフが弾くと、両手オクターブの半音階スケールはリストの半音階で弾いたり片手の半音階スケールは3度で弾いたり、という件をここまでご紹介してきましたが、では、普通に半音階スケールを演奏しているケースはあるのかと考えたくなります。
スルタノフのレパートリを見て考えた時に、スケルツォ2番や4番など、短いものは思いつきますが、1オクターブかそれ以上続くようなものをあったかなと考えると、なかなか思いつきません(幻想即興曲の長い下降は3度で弾いていることですし)。

そこで、レパートリとしては少し珍しいものですが、その中でばっちり弾いているものを1つ見つけたのでご紹介したいと思います。

モーツアルトの協奏曲第20番。第1楽章の後半(8:45頃から)と、カデンツァ(ベートーヴェン)の最後に半音階のスケールがありました。その部分は後半になるのですが、是非最初から聴くことをお勧めします。大変工夫満載で、恐れを知らぬ演奏です。少し攻めすぎに聞こえもしますが、「あっ、こんなことしている」と、工夫を楽しみながら、そして幸せを感じながら聴いて頂きたいです。(執筆現在、これほど極端な演奏でありながら Like が63件、そして dislike が0件というのは驚きです)


スルタノフはモーツアルトの協奏曲は20番を子供の頃からよく弾いており、10歳の時にウズベキスタン国立交響楽団との録音も残っています。日本公演では弾いた記録はないですが、海外ではアメリカ、ポーランド、ウズベキスタンでなど弾いていたようです。大人になってからの録音は、上記に加え、1999年4月9日、ポーランドのカトヴィッツェでの演奏(ポーランド国立放送交響楽団。指揮:Gaetano Delogu)があります(ポーランドのラジオで放送)。こちらもいつか再公開される日が来ればよいですね。

他にもスルタノフが長い半音階スケールをそのまま弾いている例はあるかもしれませんが、ぱっと思いつかないこともあり本日は、モーツアルトの20番の貴重な録音を紹介させて頂きました。
posted by Murakami at 12:44| Comment(0) | 演奏

2018年04月07日

3度の半音階

前々回、前回と、半音階の魅力リストの半音階というテーマで、スルタノフの演奏を見てきました。
ところで、スルタノフの演奏を聴きながら半音階について一番感じることは、「スルタノフは半音階旋律を見たときは、ここは3度で弾けないかな、と常に一度は考えているのではないか」ということです。半音階に限らず、実際にはいろいろなところでそういう可能性を常に考えていたと思われますし、スケールやトリルが3度に加工された実例もありますが、特に半音階のパッセージに関しては顕著です。

例えば有名なところだと、以下のメフィストワルツがあります。

この動画は、1989年に出場したヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールの、予備審査のために送ったビデオです。実際にはコンクールでも同じ形で演奏しますが、コンクールには普通に「Liszt Mephisto Waltz」という形で提出されています。これを、リスト=ブソーニ=ホロヴィッツ編と解釈するケースもあり、確かにブゾーニ編やホロヴィッツ編のエッセンスが盛り込まれているのですが、それよりは少しオリジナルに近く、スルタノフ編というかんじです。

この演奏で、中間部の半音階を3度で弾いています(上記動画の6:08あたり)。ここはリストのオリジナルでは単音で書かれているため、初めて聴くと驚きますが、おそらくこれはホロヴィッツの演奏の影響だと思います。
Liszt1.png

↓(参考)ホロヴィッツの演奏とその楽譜:
Liszt-Busoni-Horowitz - Mephisto Waltz No. 1 (Horowitz) - YouTube

メフィストワルツと共に、リストのソナタにおいても数々の演奏上の工夫がなされており、その1つとして単音の半音階は3度で演奏されています。以下の動画は、1999年3月4日の東京芸術劇場での公演です。

演奏時間として最初に登場するのは 9:10 頃になります。ここに来るまで既に工夫満載ですので、上記のメフィストワルツの演奏を知っている人には、ひょっとすると期待するところがあるかもしれません。もともと入りの一音だけ3度というのも期待させますし、リストとしても技術的制約がなければ、そう演奏する選択肢も考えていたかもしれません。
なお、その後にも、今度は上昇で3度が出てきます。思わず釘付けになる素晴らしい演奏ですので、是非濃厚な30分間を最後までお楽しみ下さい!
Liszt2.png

メフィストワルツはスルタノフが学生の頃から弾いており、もちろんナウモフ先生とも勉強したことだと思います。一方でリストのソナタについては若い頃の記録がなく、1998年のチャイコフスキーコンクールが終わってから、本格的にコンサートプログラムに組み込むため準備していたのではないかと思います。

さて、3度で演奏された半音階でもう1つ有名なのは、なんといっても幻想即興曲でしょう。日本公演でもアンコールでたびたび弾かれては聴衆を魅了しました。以前、ポーランド公演の動画を紹介したので、今回は1997年3月14日の韓国ソウル公演の動画をご紹介します。

以下の楽譜にありますが、4小節を何とも器用に3度で弾いています。
Chopin4.png

最後に、オリジナルが3度の半音階下降で書かれたものの演奏をご紹介します。
ショパンのプレリュード24番の最後の見せ場といえば、この3度の半音階です。まさに圧巻の3度をお楽しみ下さい。1998年1月のフロリダのゲインズビルでのコンサートの動画です。

Chopin5.png

今回は、スルタノフが弾く3度の半音階を紹介してみました。3度で弾くことは幻想即興曲に代表されるように得意技の1つです。今後も他の例などをご紹介していきたいと思います。
posted by Murakami at 17:01| Comment(0) | 演奏

2018年03月31日

リストの半音階

前回のブログで半音階という言葉を出したので、スルタノフの演奏から関連するところを少し見ていきたいと思います。

今回のトピックは、ショパンのスケルツォ第1番 ロ短調 op.20 です。この曲には最後に両手で4小節の半音階のスケールを弾きます。ところで、ここの部分ですが、Wikipedia(英語版)のエントリには、以下のような記載があります。
Scherzo No. 1 (Chopin) - Wikipedia
スケルツォ第1番の解釈として、ヴィラディミール・ホロヴィッツが最後の半音階のスケールを、オクターブで左右交互に弾いたことは有名である。このテクニックは彼が他の作品でも、自らの象徴のようによく使ったものである。この左右交互のオクターブ弾きでは、オリジナルの半音階スケールと同じ速度で弾くことが求められる。フランツ・リストが最初にこの方法で弾いたといわれている。

このテクニックは、日本では「リストの半音階」と表現されているものだと思います。(英語では"interlocking octaves"と表現されることがあるようです)

では、スルタノフの演奏を聴いてみましょう。この曲は、ショパンのスケルツォ集の中でスタジオ録音を残していますし、また1997年公演でも演奏しました。

まず、こちらがスタジオ録音のものになります。スルタノフはスタジオ録音になると、ライブとは異なるテンションで弾いていますが、特徴的な解釈はやはり聴衆をひきつけるものがあります。何といっても、中間部のポーランドのクリスマス・キャロルといわれている部分が、あまりに美しいです。

映像はありませんが、最後の半音階のスケールは、間違いなく交互のオクターブで弾いていることがわかります。

もう1つ、こちらは 1997年の大阪公演(1997/3/30)のライブ録音と言われています。大変残念なことに、録音テープの都合上、一部が欠けていますが、ライブらしいハイテンションな演奏です。あまりに特徴的で、聴き所がありすぎて、その全箇所を指摘することは出来ません。最後の興奮のリストの半音階をお聴き下さい。1997年の大阪公演を実施に聴かれた方からも、この最後のオクターブに大変興奮した、というお話を聞いたことがあります。(しかもこの曲はコンサート前半の1曲目です)


スルタノフが弾いた、「リストの半音階」の事例といえば、例えばチャイコフスキーのピアノ協奏曲の第3楽章などもあげられると思います。
残念ながら以下の映像は、あまり腕使いを見ることが出来ませんが、これも貴重な資料かと思います。


さて、今回のブログでは、リストの半音階として、スルタノフのスケルツォ第1番を紹介しました。
スルタノフは、1997年の公演レパートリにスケルツォ全曲を入れており、日本でも何度も演奏されています。
残念なことに、頻繁に弾いた曲であるにもかかわらず、このスケルツォ1番のライブ録音としてまともに残っているものがなさそうです。もし、1997年のスルタノフ公演で、何らかの形でこのスケルツォ1番の録音をお持ちの方がいらっしゃれば是非お知らせ下さい。スルタノフご家族にもご連絡したいと思います。

参考楽譜:
Chopin3.png


posted by Murakami at 14:51| Comment(0) | 演奏

2018年03月24日

半音階の魅力

スルタノフの演奏をよく聴いてみると、実は完全に楽譜に書かれている通りではなく、時々ちょっとした工夫が追加されていて、それが大変魅力的に聴こえることがあります。クラシック音楽の世界、特に教育段階において、こういったアプローチは否定されるケースも多いと思いますが、外野の意見を恐れることなく、自身のとって理想の芸術表現を最大限に追及していく姿は、いかにもスルタノフらしいと思います。

さて、本日は、残された録音の中から、半音階を使って曲の魅力をさらに引き出している演奏を3つ、楽譜と共にご紹介したいと思います。(楽譜はクリックすると大きくなります)

まずは、わかりやすいですが、こちらのショパンのワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」です。

いろいろと立体的に工夫された演奏ですが、今日のテーマ半音階としては0:50からになります。楽譜でいうと、以下の右手の赤枠を経過音のように半音さげることで、とても誘惑されるワルツになっています。前後の青枠と、間の赤枠(FをEで弾く)で綺麗な半音階が出来上がっています。
Chopin1.jpg

2つ目もわかりやすく、今度はメロディではなく、バスを半音階にした例で、ハイドンのピアノソナタ59番の第3楽章です。

こちらの15:00頃をお聞き下さい。こちらも誘うようなお洒落な演奏です。以下の楽譜赤枠が半音下げている部分ですが、前後の青枠の音とあわせて、3小節かけて、ゆっくり下るバスを作っています。
Haydn1.jpg

また、2楽章の最後 12:00 頃にも左手のラインで半音階を作っています。こちらもとてもお洒落。
Haydn2.jpg


最後は、細かくてわかりにくいですが、ショパンのバラード4番のコーダです。

9:10頃に右手に一瞬お洒落な半音階が出てきます。以下の赤枠が変えた音で、その前後の青枠の音とあわせて半音階を作っています。普通に聴いているとついつい通りすぎてしまいますが、このように表現の最大限の追及をしながら、考えて演奏を作り上げていることがよくわかります。
Chopin2.jpg

今回は、演奏と楽譜を使いながら、スルタノフの魅力の1つをご紹介してみました。
もし、この手の半音階加工の例で、ご紹介していない見落としなどがありましたら、是非お知らせ下さい。皆さんと共有したいと思います。
posted by Murakami at 12:36| Comment(0) | 演奏