最近、スルタノフの妹弟子(タマーラ・ポポヴィチ門下)のタミーラ・サリムジャーノワ先生にオンラインでレッスンを受けています。その中でスルタノフ研究に関連する部分がありましたので、共有致します。
前回、シューベルトの op.90-2 を見て頂いたところ、「こういう速いパッセージを弾けるようになるために、ポポヴィチ先生から習った練習方法があって、ちょっと退屈な練習なんだけれど興味ある?」と聞かれたので、折角なので教えて頂きました。
以下は、即興曲の冒頭の楽譜です。
各小節は 3連符が3拍あって、合計9つの音符から構成されています。
上記の譜例では、その2つ目の音に赤枠をつけています。
ポポヴィチ先生の練習方法では、この赤枠のような各小節の同じパターンの音で「一時停止する」というのを繰り返します。
つまり、この例では、1小節に音符が9つあるので、9パターンがあり得るのですが、最初はまず1拍目の音で毎回停止する。その動きに慣れてきたら、上記赤枠のように2つ目の音で毎回停止する。というのを続けます。この時に、慣れてきたら左手も一緒に弾きます。
タミーラ先生の話では、この練習方法は曲全体をやる必要はなく、最初の 2, 3 行をやる程度でよいけれど、この「途中停止法」で練習すると、速いパッセージがより滑らかに弾けるようになる、ということです。
スルタノフもこの練習をしたかは明らかではないですが、幼少期にタマーラ・ポポヴィチ先生に鍛えられて、速いパッセージもたくさん弾いていたでしょうから、きっと同様の練習はしたと推測されます。
なお、タミーラ・サリムジャーノワ先生は、タシケントでポポヴィチ先生に師事した後、モスクワではイリーナ・プロトニコワ先生、その後ロンドンでドミトリー・アレクセーエフ先生に師事しており、伝統的なロシアピアニズムを継承するピアニストです。ポポヴィチ先生とスルタノフのことを日頃から大変尊敬しています。ナウモフ先生に師事したスルタノフとは多少の流派の違いはあると思うのでどこまで参考になるかわかりませんが、指導を受けていて以下のような点が特徴的だと感じました。一般的なロシアンピアノスクールにおける指導とも一致すると思います。
1. レガートに対して妥協しない。Legato as much as possible!!(指使い、ペダルなど技術的な意味での可能性の追求、もちろん意識という意味でも)
2. フレーズの作り方(どこから、どこまで、その流れ方)
3. 曲全体を見た、効果的な音量配分
4. 転調に敏感になる(また、調性が近いのか遠いのか)
5. アクセント、シンコペーションなど、より強い意識で効果を出す
6. 流れの中で、ペダルを使う小節、使わない小節を使い分けて対比させる
また、指を動かすという意味でハノンを勧められています。調やリズムを変えることなく、シンプルに1番から弾いています。ポポヴィチ先生が生徒にハノンを課題にしていたのかは、いずれ聞いてみたいと思います。
シューベルトは楽譜をヘンレ版を使いましたが、私と同じよ、と言われました。
なお、タミーラ先生のシューベルトはこちらです。
2020年10月31日
ポポヴィチ先生の練習方法
posted by Murakami at 12:18| Comment(0)
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