2020年10月31日

ポポヴィチ先生の練習方法

最近、スルタノフの妹弟子(タマーラ・ポポヴィチ門下)のタミーラ・サリムジャーノワ先生にオンラインでレッスンを受けています。その中でスルタノフ研究に関連する部分がありましたので、共有致します。

前回、シューベルトの op.90-2 を見て頂いたところ、「こういう速いパッセージを弾けるようになるために、ポポヴィチ先生から習った練習方法があって、ちょっと退屈な練習なんだけれど興味ある?」と聞かれたので、折角なので教えて頂きました。

以下は、即興曲の冒頭の楽譜です。
schubert902.jpg

各小節は 3連符が3拍あって、合計9つの音符から構成されています。
上記の譜例では、その2つ目の音に赤枠をつけています。
ポポヴィチ先生の練習方法では、この赤枠のような各小節の同じパターンの音で「一時停止する」というのを繰り返します。
つまり、この例では、1小節に音符が9つあるので、9パターンがあり得るのですが、最初はまず1拍目の音で毎回停止する。その動きに慣れてきたら、上記赤枠のように2つ目の音で毎回停止する。というのを続けます。この時に、慣れてきたら左手も一緒に弾きます。
タミーラ先生の話では、この練習方法は曲全体をやる必要はなく、最初の 2, 3 行をやる程度でよいけれど、この「途中停止法」で練習すると、速いパッセージがより滑らかに弾けるようになる、ということです。
スルタノフもこの練習をしたかは明らかではないですが、幼少期にタマーラ・ポポヴィチ先生に鍛えられて、速いパッセージもたくさん弾いていたでしょうから、きっと同様の練習はしたと推測されます。

なお、タミーラ・サリムジャーノワ先生は、タシケントでポポヴィチ先生に師事した後、モスクワではイリーナ・プロトニコワ先生、その後ロンドンでドミトリー・アレクセーエフ先生に師事しており、伝統的なロシアピアニズムを継承するピアニストです。ポポヴィチ先生とスルタノフのことを日頃から大変尊敬しています。ナウモフ先生に師事したスルタノフとは多少の流派の違いはあると思うのでどこまで参考になるかわかりませんが、指導を受けていて以下のような点が特徴的だと感じました。一般的なロシアンピアノスクールにおける指導とも一致すると思います。
1. レガートに対して妥協しない。Legato as much as possible!!(指使い、ペダルなど技術的な意味での可能性の追求、もちろん意識という意味でも)
2. フレーズの作り方(どこから、どこまで、その流れ方)
3. 曲全体を見た、効果的な音量配分
4. 転調に敏感になる(また、調性が近いのか遠いのか)
5. アクセント、シンコペーションなど、より強い意識で効果を出す
6. 流れの中で、ペダルを使う小節、使わない小節を使い分けて対比させる
また、指を動かすという意味でハノンを勧められています。調やリズムを変えることなく、シンプルに1番から弾いています。ポポヴィチ先生が生徒にハノンを課題にしていたのかは、いずれ聞いてみたいと思います。

シューベルトは楽譜をヘンレ版を使いましたが、私と同じよ、と言われました。


なお、タミーラ先生のシューベルトはこちらです。
posted by Murakami at 12:18| Comment(0) | 一般

2020年10月17日

「究極のピアニストたち」でスルタノフが紹介されています。

「究極のピアニストたち: 20〜21世紀の名ピアニストの至芸と金言」というタイトルで本日より発売開始となったこちらの本ですが、巻末特別特集の「コンクール考現学」の中で、「時代と社会が生んだコンクールの光と影」という形でスルタノフが紹介されています。(一部記述を訂正すると、クライバーンコンクールで優勝したのは1985年ではなく1989年です

さらに、音楽の友 1996年3月号に掲載されたスルタノフへのインタビュー記事がそのまま4ページ掲載されています。
新しい記載ではないですが、今読んでも新鮮で私たちファンにとっても新しい気づきがありますし、25年前のショパンコンクール後にこのようなインタビューが行われていたことに興味のある方にとっても、とても貴重な資料だと思います。素晴らしい判断で掲載して下さった、編集部様に深く感謝します。
インタビューはそのままですが、プロファイルだけ今に合うように編集されていて、編集者様は当協会で提供する情報を参照して書いて下さったこともわかりました。こちらも感謝申し上げたいと思います。
2020OntomoMook.jpg

なお、スルタノフのショパンコンクールでの全演奏の動画は、以下にまとまっています。
もし今回のインタビュー記事でスルタノフのことを知った方がいらしたら、是非当時の会場の興奮も含めて、みて頂ければと思います。

第13回ショパン国際ピアノコンクールでの演奏映像(完全版): アレクセイ・スルタノフ情報
http://blog.alexeisultanov.jp/article/186526657.html


posted by Murakami at 17:42| Comment(0) | メディア