2018年06月30日

スルタノフの音源の探し方

スルタノフの録音というのは、活動期間の短さや、ソーシャルメディア時代に間に合わなかったということもあって、かなり限定されるのですが、それでも一般の人が思っているよりも多くのものがあります。今回は、そのような録音の探し方を少しご紹介します。

まず、公式販売されている CD や DVD などは、確認出来る全てのものをこちらにまとめています。
アレクセイ・スルタノフ ディスコグラフィ
その上で、少しレアな音源の探し方を共有します。

録音を探すとなると、どうしてもYouTubeになるので、まず一番はそこで検索してみるということです。こちらのスルタノフ本でも、そのようなやり方を推奨しています。


ただ、実はこの方法では見つけられない貴重な音源もあります。その簡単な方法をご紹介します。
見つけられない理由の多くは、もともとmp3ファイルだったものをアップロードしているからなのですが、ファイル名に「_(アンダースコア)」が使われており、YouTubeの検索ではアンダースコアがセパレータとして機能しないので引っかからないのです。

可能な限り、全てのスルタノフの音源を確認していきたい、という場合は、スルタノフの音源をアップロードしているアカウントの動画リストを眺めることをお勧めします。
YouTubeにあるスルタノフの音源は、事実上3人によってアップしているものが全てで、残りのものは、それらから派生したもの、もしくは同じソースを使ったものです。彼ら3人は、何が貴重な動画かを明確に理解しており、そういうものを逃さずに公開しています。

1. アカウント:carevnarakuna
このアカウントは、スルタノフ夫人、Daceさんが管理するもので、事実上スルタノフ公式と言えます。
有名なものも多くありますが、一部大変非常に貴重なものなどを含みます。有名なヴァン・クライバーンの予備予選で使われたメフィストワルツの動画なども、彼女が公開してくれたおかげで、こうして皆の目に触れることになりました。

なんといっても、"SULTANOV Encores"シリーズが、大変貴重です。

2. アカウント:Wolfgang527
このアカウントは、ロシアのピアニスト、Andrey Denisenko さんのものと言われています。
一部スルタノフとは無関係のものを含みますが、ほとんどはスルタノフに関係するものです。

3. アカウント:harmony14447 - YouTube
このアカウントは Elena さんという方のものと言われています。前回紹介した、モーツアルトのK.330の貴重な音源も彼女のアカウントで共有されているものです。

この3つのアカウントの動画を見てみると、これまで知らなかったスルタノフの動画/音源を見れるかもしれません。
動画もたくさんありますので、どの動画が貴重なのか、というのもこのブログで今後ご紹介していきたいと思います。

なお、これらの音源は、プライベートに録音されたものを含むと思いますが、スルタノフのご家族は世界中からこうした音源を探されています。スルタノフの日本での活動の中で、もしお手持ちの音源や写真などがありましたら、是非お知らせ下さい。
posted by Murakami at 11:06| Comment(0) | 演奏

2018年06月23日

スルタノフとホロヴィッツ(番外編)

スルタノフとホロヴィッツに関して、いろいろなエピソードを紹介してきました。最後に1つ興味深いと思ったことを、共有します。

スルタノフ関連の情報源として、言語ごとにオフィシャルサイト相当のものがいくつかありますが、スルタノフの弟、セルゲイ氏が提供しているサイトではロシア語で大量の興味深い資料が提供されています。
Сайт памяти Алексея Султанова

さて、このサイトでスルタノフとホロヴィッツについての出会いなども紹介されているのですが、大変興味深い記述が1つあります。Литературная газета社というロシアの新聞社によるインタビュー記事(1998年7月15日)からの引用です。
И Володя очень долго смеялся и извинялся. Ведь я ему сказал: "Из-за тебя мне пришлось жениться".

この内容は、大変有名な、スルタノフとDace夫人との出会いをホロヴィッツに報告しているシーンで、「ヴォロージャは長いこと笑って謝りました。私は言ったのです。『あなたのせいで結婚することになってしまいまいましたよ』」という内容が記載されています。

この文では、気になる点が2つあります。
1つめは、「あなた」という単語に「тебя (Ты)」を使っているという点です。ロシア語では、2人称の言い方が2種類あるのですが、この表現は「君」に近く、大変親しい関係か子供などに使う、と教科書では習います。
この点について、弟のセルゲイ氏に聞いてみたところ:
「アレクセイとホロヴィッツがもしロシア語で会話して、それが文字通り記載されているとするなら・・・。アレクセイのホロヴィッツへの尊敬、また初対面であったことから"Ты"をいきなり使うことは有り得ない。おそらく、ホロヴィッツがお互いの距離感を縮めるために、"Ты"で話そう、と提案したのではないか」
と言っています。当時の記録から、彼ら2人がロシア語で話したことは間違いなく、ロシアの新聞社へのインタビューであることを考えると、このロシア語文の再現性は高いと思われます。セルゲイ氏の推察の通り、ホロヴィッツの提案により、二人は60歳以上も年が離れていながらも、友達のように会話をしたのかもしれない、と解釈するのがよさそうです。

2つ目に、新聞社のインタビューの中ではありますが、スルタノフはホロヴィッツのことを「ヴォローヂャ」と呼んでいる、という点です。これも、私たちが「アリョーシャ」と呼ぶ以上に、意味があることと思いますが、やはり1度会って楽しい時間をすごした、という背景があってのことなのかなと感じます。

これらをより深く知るには、ロシアでの文化や、ホロヴィッツが周囲とどういう言葉遣いで接してきたか、というのを知る必要があるでしょうが、興味深いお話ですのでご紹介させていただきました。
posted by Murakami at 12:30| Comment(0) | 歴史

2018年06月17日

スルタノフの演奏に見るホロヴィッツの影響(モーツァルト)その2

前回のブログで、スルタノフが演奏するモーツァルトのソナタの演奏に、ホロヴィッツの影響が見られる、というお話をしました。
前回ご紹介したのは、K.330 の第1楽章の演奏です。それでは、他の楽章はどうかというのも気になるところです。
一般的にスルタノフファンの間で幅広く知られている K.330 の録音は、クライバーンコンクールのライブ録音であり、2, 3楽章だけが演奏されています。音源はコンクールのオフィシャルCDに入っており、また一部の映像はオフィシャル DVD の "Here to make music" に収録されています。

冒頭の映像:


3楽章のフル音源:


この演奏は、希望と幸せに満ち溢れ、上から押しつけられたところのない、10代の男の子らしい快活な表現が満載の大変気持ちのよい演奏です。
ところで、このよく知られた3楽章の演奏に対して、2004年8月21日に開催した「ライブ・イン・リガCD発売イベント」で、出席された作曲家の先生からこのような解説がありました。
最後の和音をホロヴィッツはバラして弾くが、スルタノフはバラさないで弾く

これは、まさに最後の以下の3つの音のことです。確かにコンクールでの録音を聞くと、スルタノフは楽譜通りに弾いています。
Mozart-KV330-2.png

では、ホロヴィッツが 1986年のモスクワ公演でどのようにここの箇所を弾いたかを確認してみると、こちらも確かにペダルを使い華やかなアルペジオで弾いています。同時16歳となるスルタノフも未来の妻となるDace嬢と一緒にこれを聴き、刺激を受けたことでしょう。


さて。コンクールでは確かにバラさず弾いていたものの、他の時はどうだったのでしょうか。
前回ご紹介した1楽章の録音には、続きの楽章の録音があります。1991年12月20日ギリシャのアテネ公演の録音ではないかと言われているものです。

この録音を聴くと、最後の和音はアルペジオで弾いていることがわかります!もちろん、ホロヴィッツの影響を受けたものだと思います。同様に、1990年5月3日のカーネギーホール公演でも、アルペジオで弾いたようです。

余談になりますが、スルタノフは1991年および1999年の来日公演でも、このソナタを演奏しています。
1991年の来日公演については演奏記録がなくわかりませんが、1999年の来日では、3楽章はクライバーンコンクールの時と同様、バラさずに弾いていたと記憶しています。その時々にあったスタイルできっと演奏されているのだと思います。
ホロヴィッツのアパートに招かれた時も、このソナタを演奏した、ということですが、果たしてどちらの弾き方をしたのか興味深いところです。
posted by Murakami at 17:55| Comment(0) | ご家族

2018年06月09日

スルタノフの演奏に見るホロヴィッツの影響(モーツァルト)

スルタノフの演奏を聴いていると、いたるところにホロヴィッツの影響を感じることが出来ます。本日はその1つをご紹介します。

スルタノフが演奏したモーツァルトの K.330 はクライバーンコンクールで演奏した 2, 3楽章が録音としては有名ですが、大変貴重な1楽章の録音も実は残っています。

以下の録音日時はあまりはっきりしませんが、情報を整理する限り1991年12月20日ギリシャのアテネ公演での録音の可能性が高いと判断しています。


この演奏は自由度が高く音楽の喜びが見事に表現された素晴らしい演奏で、是非多くの方に聴いて頂きたい演奏です。

ところで、スルタノフと K.330 といえば、1986年のホロヴィッツモスクワ公演で演奏を生で聴いて大きな刺激を受けたであると想像されます。その後、スルタノフは1989年にホロヴィッツの自宅を訪ねた時も、ホロヴィッツの前でこの曲を演奏しています。
そのホロヴィッツのモスクワ公演の演奏を聴いてみると、スルタノフがいかにこの演奏から影響を受けていたかがわかります。第2主題の入り方や、ドミナントコードの弾き方など、あちこちに感じることが出来ます。


特に特徴的なのは、トリルの弾き方です。スルタノフの演奏では最初に1:22あたりに出てくる以下の部分は、中でも特徴的です。ホロヴィッツに倣い、何ともお洒落な弾き方です。
Mozart-KV_330.png

スルタノフは好きな作曲家にモーツァルトをあげていましたが、この演奏を聴くと実によくわかりますし、他にも様々な録音を聴いてみたいと思わされます。

posted by Murakami at 11:29| Comment(0) | 演奏

2018年06月03日

スルタノフとホロヴィッツ(ホロヴィッツ編を弾く)

全4回で予定していた、スルタノフとホロヴィッツに関する連載の最後になります。過去のものはこちら。

スルタノフとホロヴィッツ(妻 Daceとの出会い編)
スルタノフとホロヴィッツ(ご対面編)
スルタノフとホロヴィッツ(ホロヴィッツのピアノ編)

さて、ホロヴィッツシリーズ4回目となる今回は、スルタノフとホロヴィッツ編曲作品についての関わりをご紹介します。
スルタノフが持っていたレパートリという点からは、以下のレパートリページとディスコグラフィページが参考になります。この中にも、ホロヴィッツという文字が見えます。
アレクセイ・スルタノフ ソロレパートリ
アレクセイ・スルタノフ ディスコグラフィ

スルタノフの演奏は、もちろんどの曲もホロヴィッツの影響を大きく受けているわけですが、まず最初にホロヴィッツの解釈にならって演奏された、といえるのは、1988-89年に演奏されているメフィスト・ワルツだと思います。以下の動画はクライバーン・コンクールのビデオ審査に提出したものですが、この後、コンクールで弾き、カーネギーホール公演を含む入賞者コンサートツアーで何度も弾き、さらにはホロヴィッツの目の前でも弾いています。


時間軸として、次にスルタノフが弾いたのは、ラフマニノフのソナタ2番のホロヴィッツ版になると思います。主に1996年の公演プログラムに使われましたが、それより前の1992年に2月にTELDECのベルリンのスタジオにて録音を行っています。


以下は1996年の東京公演になります。


その次にスルタノフが弾いたホロヴィッツ編は、リストのハンガリー狂詩曲第2番です。こちらは、1999年3月の日本公演で演奏しています。具体的にいつ頃から弾いていたかの記録はありませんが、1998年の7月頃から練習をしていたのではないかと言われています。


さて、その後スルタノフは2000年3月に行われたリガでのライブで、ハンガリー狂詩曲に加えて、カルメン変奏曲、結婚行進曲、死の舞踏と、4曲のホロヴィッツ編を披露しています。この3曲もレパートリとしては当時最新であったと推測されますが、この中ではカルメン変奏曲を一番最初にマスターしていたようです。1998年に行われたインタビューで、既にカルメンをレパートリにしていると答えたようですが、1999年公演ではアンコールを含めて一切披露していなかった点や、ホロヴィッツ編の多くの楽譜を1999年公演の中でファンから入手したのでは、という疑惑もあり、はっきりしないところもあります。いずれにせよ、これらはあっと言う間にレパートリになり、1999-2000年の公演で、母国ウズベキスタンや、モスクワ、リガなどで演奏しています。実現こそなりませんでしたが、ジャパン・アーツのアーツコアレーベルより、ホロヴィッツの編曲集の録音をリリースするという計画もありました。

これは 2000年にモスクワのグネーシンでのコンサートの貴重な映像です。カルメン変奏曲。


同じ日に演奏した、死の舞踏。


別の日(2000年3月のリガ公演)の録音より、結婚行進曲。


最後に、上記まではよく知られているのですが、さらに2000年4月に、スルタノフはフォートワースにてもう1曲、ホロヴィッツ作曲の「変わり者の踊り」を録音しています。
この録音は、ロシアなどで小さく流通されたという「Unpublished Sultanov」というCDの中に含まれました。


録音が残っているのは、今のところこれくらいです。
この他によく知られている話としては、以下があります。
1. リスト=ホロヴィッツのハンガリー狂詩曲第15番(ラコッツィ行進曲)はレコーディングこそ行われなかったが、既に練習には取り組んでいた。
2. ホロヴィッツ編曲の星条旗よ永遠なれ、は、本来アメリカ国籍取得記念セレモニーで演奏予定であったが、時期が延びてしまい、結果的には病後となった2004年に右手1本で "America the Beautiful" を演奏した。
その他、レパートリリストには、ハンガリー狂詩曲第19番のホロヴィッツ編も記載がありますが、こちらは情報はありません。

いずれにせよ、スルタノフが最も尊敬していたホロヴィッツの編曲も、多くの曲が無事に録音されていたことに感謝し、お楽しみ頂ければと思います!
posted by Murakami at 15:54| Comment(0) | 演奏