2018年07月14日

イタリア協奏曲

前回のブログでスルタノフが演奏したイタリア協奏曲の3楽章をご紹介しました。
今回は、1, 2楽章についてご紹介します。

スルタノフはクライバーンコンクールの予選で、イタリア協奏曲の1楽章を演奏しています。この演奏は、公式に発売されたCDやDVDには入っておらず幻だったのですが、実は録音は残っており、今は YouTube でその貴重な録音を聴くことが出来ます。
先日ご紹介したポゴレリッチフェスティバルでは全楽章弾いているのですが、1楽章の録音は不完全で残っているため、この1楽章のまともな録音はコンクールの録音だけ、といわれており、やはり大変貴重な録音になります。コンクールで弾いているとは思えない、元気いっぱいの若者的な表現になっています。


さて2楽章の録音ですが、私が知る限り、世の中にはポゴレリッチフェスティバルの録音と、あるコンサートでアンコールで弾いたときのことと、2つほど録音が残されてそうです。YouTube にはポゴレリッチフェスティバルの録音が残っているようでして、こちらを紹介させて頂きます。



以前あるピアニストの先生が、様々な録音をつめたものを順に聞いているうちに、あまりに色っぽいイタリア協奏曲の演奏が流れてつい手を止めて演奏者を確認したらスルタノフだった、という話を聞いたことがありますが、やはり独特の魅力にあふれた演奏だと思います。

お楽しみ下さい!
posted by Murakami at 07:34| Comment(0) | 演奏

2018年07月07日

スルタノフも間違える(バッハ:イタリア協奏曲第3楽章)

これは大変貴重な録音です。スルタノフが派手に間違えたのが記録されている、唯一の録音であると共に、バッハのイタリア協奏曲の3楽章の演奏の記録があるのはこの音源のみになるからです。

さて、その大変貴重な演奏はこちらになります。1989年のポゴレリッチフェスティバルでの演奏の録音と言われています。
何ともスルタノフらしい、幸せな始まり方ですが、途中で暗譜が数回怪しくなります。これで止まらず最後まで弾ききるのはさすがプロです。ともあれ、貴重な録音をお楽しみ下さい。


ところで、これはサイドエピソードですが、イタリアのピアニストで Sandro Russo という方がいます。日本でも、名前が知られた方です。
ある時、Sandro氏は突然のリクエストでこのイタリア協奏曲を本番で弾いたときに、悔いの残るミスをしたそうです。彼も実はスルタノフの演奏が好きで、よく聞いているそうですが、いろいろとスルタノフの音源をあさっているうちに、この音源に遭遇しました。Sandro氏曰く、このイタリア協奏曲を聴いていると、自分に弾き方が似ていると思ったそうですが、かつて自分が悔やまれるミスをしたところと同じところでスルタノフもミスしているのを聞いて、特別難しくもないにも関わらず何とも偶然だ、と思ったそうです。
スルタノフにインスパイアされたピアニストたちのこのようなエピソードもまた、興味深いと思います。
posted by Murakami at 11:01| Comment(0) | 演奏

2018年06月30日

スルタノフの音源の探し方

スルタノフの録音というのは、活動期間の短さや、ソーシャルメディア時代に間に合わなかったということもあって、かなり限定されるのですが、それでも一般の人が思っているよりも多くのものがあります。今回は、そのような録音の探し方を少しご紹介します。

まず、公式販売されている CD や DVD などは、確認出来る全てのものをこちらにまとめています。
アレクセイ・スルタノフ ディスコグラフィ
その上で、少しレアな音源の探し方を共有します。

録音を探すとなると、どうしてもYouTubeになるので、まず一番はそこで検索してみるということです。こちらのスルタノフ本でも、そのようなやり方を推奨しています。


ただ、実はこの方法では見つけられない貴重な音源もあります。その簡単な方法をご紹介します。
見つけられない理由の多くは、もともとmp3ファイルだったものをアップロードしているからなのですが、ファイル名に「_(アンダースコア)」が使われており、YouTubeの検索ではアンダースコアがセパレータとして機能しないので引っかからないのです。

可能な限り、全てのスルタノフの音源を確認していきたい、という場合は、スルタノフの音源をアップロードしているアカウントの動画リストを眺めることをお勧めします。
YouTubeにあるスルタノフの音源は、事実上3人によってアップしているものが全てで、残りのものは、それらから派生したもの、もしくは同じソースを使ったものです。彼ら3人は、何が貴重な動画かを明確に理解しており、そういうものを逃さずに公開しています。

1. アカウント:carevnarakuna
このアカウントは、スルタノフ夫人、Daceさんが管理するもので、事実上スルタノフ公式と言えます。
有名なものも多くありますが、一部大変非常に貴重なものなどを含みます。有名なヴァン・クライバーンの予備予選で使われたメフィストワルツの動画なども、彼女が公開してくれたおかげで、こうして皆の目に触れることになりました。

なんといっても、"SULTANOV Encores"シリーズが、大変貴重です。

2. アカウント:Wolfgang527
このアカウントは、ロシアのピアニスト、Andrey Denisenko さんのものと言われています。
一部スルタノフとは無関係のものを含みますが、ほとんどはスルタノフに関係するものです。

3. アカウント:harmony14447 - YouTube
このアカウントは Elena さんという方のものと言われています。前回紹介した、モーツアルトのK.330の貴重な音源も彼女のアカウントで共有されているものです。

この3つのアカウントの動画を見てみると、これまで知らなかったスルタノフの動画/音源を見れるかもしれません。
動画もたくさんありますので、どの動画が貴重なのか、というのもこのブログで今後ご紹介していきたいと思います。

なお、これらの音源は、プライベートに録音されたものを含むと思いますが、スルタノフのご家族は世界中からこうした音源を探されています。スルタノフの日本での活動の中で、もしお手持ちの音源や写真などがありましたら、是非お知らせ下さい。
posted by Murakami at 11:06| Comment(0) | 演奏

2018年06月23日

スルタノフとホロヴィッツ(番外編)

スルタノフとホロヴィッツに関して、いろいろなエピソードを紹介してきました。最後に1つ興味深いと思ったことを、共有します。

スルタノフ関連の情報源として、言語ごとにオフィシャルサイト相当のものがいくつかありますが、スルタノフの弟、セルゲイ氏が提供しているサイトではロシア語で大量の興味深い資料が提供されています。
Сайт памяти Алексея Султанова

さて、このサイトでスルタノフとホロヴィッツについての出会いなども紹介されているのですが、大変興味深い記述が1つあります。Литературная газета社というロシアの新聞社によるインタビュー記事(1998年7月15日)からの引用です。
И Володя очень долго смеялся и извинялся. Ведь я ему сказал: "Из-за тебя мне пришлось жениться".

この内容は、大変有名な、スルタノフとDace夫人との出会いをホロヴィッツに報告しているシーンで、「ヴォロージャは長いこと笑って謝りました。私は言ったのです。『あなたのせいで結婚することになってしまいまいましたよ』」という内容が記載されています。

この文では、気になる点が2つあります。
1つめは、「あなた」という単語に「тебя (Ты)」を使っているという点です。ロシア語では、2人称の言い方が2種類あるのですが、この表現は「君」に近く、大変親しい関係か子供などに使う、と教科書では習います。
この点について、弟のセルゲイ氏に聞いてみたところ:
「アレクセイとホロヴィッツがもしロシア語で会話して、それが文字通り記載されているとするなら・・・。アレクセイのホロヴィッツへの尊敬、また初対面であったことから"Ты"をいきなり使うことは有り得ない。おそらく、ホロヴィッツがお互いの距離感を縮めるために、"Ты"で話そう、と提案したのではないか」
と言っています。当時の記録から、彼ら2人がロシア語で話したことは間違いなく、ロシアの新聞社へのインタビューであることを考えると、このロシア語文の再現性は高いと思われます。セルゲイ氏の推察の通り、ホロヴィッツの提案により、二人は60歳以上も年が離れていながらも、友達のように会話をしたのかもしれない、と解釈するのがよさそうです。

2つ目に、新聞社のインタビューの中ではありますが、スルタノフはホロヴィッツのことを「ヴォローヂャ」と呼んでいる、という点です。これも、私たちが「アリョーシャ」と呼ぶ以上に、意味があることと思いますが、やはり1度会って楽しい時間をすごした、という背景があってのことなのかなと感じます。

これらをより深く知るには、ロシアでの文化や、ホロヴィッツが周囲とどういう言葉遣いで接してきたか、というのを知る必要があるでしょうが、興味深いお話ですのでご紹介させていただきました。
posted by Murakami at 12:30| Comment(0) | 歴史

2018年06月17日

スルタノフの演奏に見るホロヴィッツの影響(モーツァルト)その2

前回のブログで、スルタノフが演奏するモーツァルトのソナタの演奏に、ホロヴィッツの影響が見られる、というお話をしました。
前回ご紹介したのは、K.330 の第1楽章の演奏です。それでは、他の楽章はどうかというのも気になるところです。
一般的にスルタノフファンの間で幅広く知られている K.330 の録音は、クライバーンコンクールのライブ録音であり、2, 3楽章だけが演奏されています。音源はコンクールのオフィシャルCDに入っており、また一部の映像はオフィシャル DVD の "Here to make music" に収録されています。

冒頭の映像:


3楽章のフル音源:


この演奏は、希望と幸せに満ち溢れ、上から押しつけられたところのない、10代の男の子らしい快活な表現が満載の大変気持ちのよい演奏です。
ところで、このよく知られた3楽章の演奏に対して、2004年8月21日に開催した「ライブ・イン・リガCD発売イベント」で、出席された作曲家の先生からこのような解説がありました。
最後の和音をホロヴィッツはバラして弾くが、スルタノフはバラさないで弾く

これは、まさに最後の以下の3つの音のことです。確かにコンクールでの録音を聞くと、スルタノフは楽譜通りに弾いています。
Mozart-KV330-2.png

では、ホロヴィッツが 1986年のモスクワ公演でどのようにここの箇所を弾いたかを確認してみると、こちらも確かにペダルを使い華やかなアルペジオで弾いています。同時16歳となるスルタノフも未来の妻となるDace嬢と一緒にこれを聴き、刺激を受けたことでしょう。


さて。コンクールでは確かにバラさず弾いていたものの、他の時はどうだったのでしょうか。
前回ご紹介した1楽章の録音には、続きの楽章の録音があります。1991年12月20日ギリシャのアテネ公演の録音ではないかと言われているものです。

この録音を聴くと、最後の和音はアルペジオで弾いていることがわかります!もちろん、ホロヴィッツの影響を受けたものだと思います。同様に、1990年5月3日のカーネギーホール公演でも、アルペジオで弾いたようです。

余談になりますが、スルタノフは1991年および1999年の来日公演でも、このソナタを演奏しています。
1991年の来日公演については演奏記録がなくわかりませんが、1999年の来日では、3楽章はクライバーンコンクールの時と同様、バラさずに弾いていたと記憶しています。その時々にあったスタイルできっと演奏されているのだと思います。
ホロヴィッツのアパートに招かれた時も、このソナタを演奏した、ということですが、果たしてどちらの弾き方をしたのか興味深いところです。
posted by Murakami at 17:55| Comment(0) | ご家族